創立60周年記念 座談会 (平成25年10月3日)
時代に沿った地域ニーズを公共建築の再利用に生かす
公共建築 近藤工業㈱ 取締役営業企画室長 近藤 修弘
人口減少に伴い学校の統廃合が進んでいますが、廃校になった小学校や中学校は住宅地域の真ん中に建設されているのに、廃校のままで地域の人たちが利用できなくなっているのが現状です。
学校開放で体育館が試験会場やスポーツ、校庭は夏祭りにも使われています。卒業生にとっても思い出がたくさん詰まっているのが出身校です。いろいろな意味で大切な場所が学校なのです。
その学校がなくなって更地になったり、使われず廃墟に近くなったり、企業や倉庫として利用され、一般の人が使えない状況となっています。
学校には人が集う交流の場所としての役割もあるのですが、それを失うことによって、地域のつながりが弱くなっているともいえます。
後志地域は北海道のなかでも豪雪地域なので、地域の生活道路の機能が失われてしまい、車と人を分けるのが困難となり、不便さが増します。事実上、冬における学校の再利用は、より近隣に住んでいる人に限られてしまい、車がなければ利用するのが困難になってしまいます。
また、学校はその大きさゆえに避難施設として役割を担う可能性もあり、統廃合を検討する段階で考える必要があります。避難所としての学校のありかたも、もう一歩踏み込んで議論しなければならないと思います。
学校の統廃合を考える前に、コミュニティーセンターとしての複合利用ができないのか検討する価値があります。別の場所にコミュニティーセンターを新築するか、既存の建築物を再利用できないか検討することが大切です。
市町村役場や施設(病院・保健所・消防署など)にも同じことがいえます。自治体によっては、老朽化し現行の耐震基準にまったく合っていないものもあります。たしかに、財源がないため建設の優先順位を下げるのは、理由としては通りますが、大きな課題が残ります。
災害時の拠点が、地震によって倒壊したり、火災になったりしてしまい、被災したままではどうにもなりません。一時的にライフラインが機能しなくなったときでも、バックアップのできている施設でなければなりません。もし、厳寒期に災害が起きたとき、避難する施設がしっかりしていなければ、直接の災害を生き延びられても、なお生命や健康を脅かされることになります。「想定外」という言葉はもはや通用せず、二重三重の備えが必要なのです。
そのためには、既存建築物の改修を検討し、建て替えが必要であるかどうか考えなければなりませんが、それには耐震改修と省エネルギー改修が必要不可欠です。既存公共建築物は建設から40年ほど経過しているものが多く、現行の耐震基準と省エネルギー法に適合していないからです。
実際に調査すると、コンクリート中性化、鉄筋の錆びによるコンクリート爆裂や設備の老朽化、防水や金属まわりの劣化があるので、躯体の長寿命化や設備のリニューアル、防水改修などの保全計画を考えなければなりません。
同時に設備と開口部まわりの断熱化による省エネルギー化も進める必要があります。費用対効果などを考慮すると、建て替えの方が長期的には利点が多い場合もあるので、海外や国内で採用されつつある PFIや借り上げ方式など、民間活力を利用した計画もこれからは重要になってきます。
これからの仕事のありかたとしては、単に発注されたものを施工するだけではなく、行政・設計事務所・会計事務所・管理会社などと連携することにより、建物のライフサイクルを提案し、持続可能な公共建築を造っていくことが望まれます。
公共建築への意見 アドバイザー 今
公共建築というのは、建築物としての機能を持つだけではなく、地域の品格も現していると考えます。その場限りの流行ではなく、その地域ならではの特性、そして地域の人々が大切にしてきたことがらなどを基礎にデザインされた公共建築物は、地域の誇りであり、よそからの訪問者にその地域の豊かさを伝えるものです。その意味で、公共建築に携わることは、地域の文化を創造する役割の一端を担っているとの自覚が必要です。
お話しのなかで「発注されたものをただ施工するだけではない」というお考えをうかがい、後志地域のこれからにとても期待を持ちました。発注者をはじめとする関係者との密接な連携を図りながら、維持や機能の多様性にも目を向ける視点が伝わってきました。そのために建設業は、公共物の計画の時点から関わるポジションをどうつくっていくかが問われることになるでしょう。この視点はまさに「武内イズム」であり、「武内イズム」がいまも息づいていることを頼もしく思います。
最近では倉庫が人々の集いの場に再利用されるケースもあるように、アイディア提案のために見聞を拡げることも必要です。なんといっても再利用の場合の安全性こそは、建設業界の智恵の発揮のしどころです。安全性を維持するということは「持続可能性」という考え方につながります。
これからの公共事業を考えるうえで、この「持続可能性」という考え方は大事な概念であり、地域開発のキーワードでもあります。
公共建築への意見 吉本会長
10年前に当協会は50周年記念誌を発刊しました。そのとき、タイトルを「回帰」と提案してくれたのは武内さんでした。例えば、公共事業により川の流れを人工的に変え堤防を造った結果、自然体系が大きく狂うようながあったとしたら、元通りに蛇行させるくらいの回帰が必要だとも言っていました。今先生のご指摘を受けて、あらためて思い起こしました。武内さんという人はそこまで考えておられたのかと、つくづく感動しました。今先生、ありがとうございました。