創立60周年記念 座談会 (平成25年10月3日)
地域インフラの「町医者」機能の研究
防災対策
安全・環境・災害対策委員長 ㈱長組 代表取締役 長 勇
1 .原発防災対策の研究と浸透
原子力発電所というものは政治的産物であると同時に、技術的には極めて高度な対象であることから、地方建設協会のような存在がどこまで関われるかというと、現時点ではなかなか難しい問題があるように思っております。ただし、万が一の場合の避難路や避難場所の確保や誘導について、関係機関と連携して進めていく必要はあると考えています。
2. 積雪期間の防災対策の研究と浸透
冬期間の問題は豪雪地帯を抱える後志管内では実にリアルな課題です。しかしながら、現状では経費削減の影響もあり、決して、災害を予測しての十分な維持体制にはなっておりません。ただし、これまで地域特性としての防雪柵・雪崩柵などの設置により、安全な通行が可能になってきています。また滑り止めの散布剤により緊急時の渋滞解消に向けた試みがなされてはいます。
今後は、道路管理者と協議をし、避難道路を兼ねることを勘案しながら、冬期間の通行止めがないように要望をしていく必要があります。
3. 地域防災対策と地域連携の推進(地区・企業・家族・個人・ TPO)
まずは地域ごとに住民への啓発が第一と考えます。子供から高齢者に至るまでの徹底した啓発です。すでに管内の地域においても避難訓練が実施されていますが、その継続が大切です。人間は想定外のハプニングでパニックになることが多いという性質を持っているので、訓練の日常化が必要です。つまり災害に対するリアリティに慣れることにより、想定外の災害への応用力を身につけられると考えるからです。そのため我々建設業界も関係機関と協議をしながら、啓発運動や避難運動に積極的に関わっていくことが大事な課題と考えています。
4. 防災対策における建設業の役割確認
ここ10年間、公共投資の減少で地方の中小建設業は合理化を進め、自社では技術者のみを雇用し、一般作業員を減少させ、事務職員やオペレーターも置かないことに加え、重機や機械まで一切持たないのが一般化しています。このような状況で、地域防災対策にどのように役立てられるのかが心配です。
一方、時代的傾向として、防災に向けた企業体質の進化が求められているように思います。例えば、建設業の「町医者」シフトという視点で、地域の健康を守る役割も新たな進化と思われます。地域の建設業界が「インフラ病院」の機能を果たすということです。地域の「安心・安全」を守る砦です。
建設業は、緊急事態の機能分担が大切だという共通認識を持ちつつ、関連機関と連携して、地域ごとの防災対策について必要とされる役割を果たしていくことが重要であると思います。
5. IT技術と防災対策の研究
IT技術はデジタルですが、とかく人の世はアナログです。したがって、緊急時に人々はどうあるべきかというアナログでの対策を進めることが第ーであり、その動きの判断をするための情報システムとしてデジタルのIT技術が存在すると考えます。しかしIT技術は日増しに進化し、それについていけない人々も実に多いのも事実です。IT操作能力のある人だけが助かるということがあってはなりません。リアルタイムな情報ツールとしてIT技術を活用し、より多くの人々が助かるような体制こそが重要です。
そういう体制であれば、IT技術は大歓迎です。我々が防災に関するIT技術を学ぶ機会があっても、こういう心構えの上に立って、知識や技能を吸収したいと考えています。
防災対策への意見 吉本会長
ただいまの「町医者」という問題提起は、「北海道建設新聞」にもシリーズで9回くらい掲載されていましたね。「町医者」というのはかかりつけという意味です。自分の体が異常を来したとき、例えば咳が出たり、めまいがしたりという場合は、自分の体の記録であるカルテが蓄積された、かかりつけの医者に行くと、適切な指示がもらえます。そこで手に負えなければ、大きな病院を紹介してくれます。
建設業のなかでも維持関連業務に関わる企業は、特にこのような視点からインフラを見る機会が多くあり、知識もあります。せっかく公費で造られたインフラなのに、草で視界が遮られたり、標識が見え難かったりする、たったそれだけのことで事故発生の原因にもなるのはもったいない話です。防災に関しては、関係者が一つになって、「安心・安全」を心掛ける時代だということですね。
長委員長のご意見は、建設業の現在の実態ばかりでなく、建設業の限界も把握された、実によいお話しでした。時代の変化や時代のニーズに対し、我々が何をできるかを、もっと時間をかけて議論しなくてはと感じました。
防災対策への意見 進行 石井
ただいまのご提案に、「町医者」という新鮮な言葉がありました。インフラには維持という大事な管理が伴います。放っておいて大惨事になった事例はいくつもあるでしょう。公的機関には全国共通の点検マニュアルがあるそうですから、さらに地域特性を把握した建設業の出番があると考えられます。世の中、教科書どおりにはならないというのは、常々吉本会長がいわれていることです。「歌って踊れる学者でないといかん」という意味です。この現場視点からの点検の仕方が今後、インフラ点検において重要だと思います。
ここに建設業の「町医者」機能が見えてきそうな気がします。